猫は太陽の夢を見るか:番外地

それと同じこと、誰かがTwitterで言ってるの見たよ

アニメ『CLANNAD』を見た話

 

雑文。

アニメ『CLANNAD』『CLANNAD~AFTER STORY~』を見たのは昨年の秋ごろであった。

さんざん語られたこの作品に関して今更感のある視聴だったが、それをこのタイミングで記事にするのもかなり今更感がある。

 

しかし実際に全話通して視聴してみて、こんなにも幻想的で都市論的示唆を含む作品だとは思っていなかった。

原作ゲームは未プレイなのだが、アニメ『CLANNAD』(第1期)および『CLANNAD~AFTER STORY~』(第2期)の物語のテーマの大きな骨子となるキーワードは、ひとつに、変わるものと変わらないもの(そして変わらずにはいられないもの)であるだろう。

そのことは、第1期冒頭の(そして折に触れて繰り返される)古川渚の劇中劇の台詞にも明示されている。

「この学校は好きですか?私はとってもとっても好きです。でも、何もかも変わらずにはいられないです。楽しいこととか嬉しいこととか全部、全部変わらずにはいられないです。それでもこの場所が好きでいられますか?」

それに対して主人公・岡崎智也は次のようにこたえる。

「見つければいいだろう。次の楽しいこととか嬉しいことを見つければいいだけだろう。ほら、行こうぜ。」

この何気ない応答の台詞は今後のストーリーにおいて他でもない智也自身が痛感することになる。

 

都市論的には、郊外の再開発時期と主人公の成長の対比がある。

主人公の心情と舞台となる町。

両者の変化が連動するストーリー展開。

物語の舞台となっている町はさして大きな建物もなく住宅の立ち並ぶ郊外だが(そしておそらくはすべてのロケーションに“聖地”となっているモデルがある)、田舎から出てきた中学生が都会的だと感じる程度には繁華で(第1期春原兄妹編で言及される)、休日に若者がショッピングを楽しむことのできる規模の商店街や不良がたむろするような歓楽店の並ぶ区画もある。

だが、ひとの噂が瞬く間に広がってしまう程度には小さな町(実際、第2期で主人公の父親が警察に捕まった際には即日彼の働き口に影響が出ている)。

第1期冒頭では空き地の光景が目立ち、いかにも何もない町が特徴的に、しかし取り立てて強調されることなく描写される。

それはOPで曲を背景に流れていく断片的な町のショットからも印象づけられる。

一方、主人公が高校を卒業し、就職し、家族を見つけていく第2期では、緑地に大きな病院の建設される話が取りざたされ(物語終盤ではすでに病院が出来上がっている)、通学路の雑木林はファミリーレストランになり、学園編の主要舞台となった高校の旧校舎が取り壊されるという話が出ている。

それら町の変化に対する主人公の動揺。

周囲と自分自身の変化をどのように折り合いをつけ、受け入れていくのか。

物語が進むにつれて都市論的な演出が目立っていくが(とくに第2期において)、京都アニメーションの緻密なロケーション描写がそれを際立させている。

 

幻想性という点では、ひとつに、現実世界とそれに並行する隠された幻想世界のようすがたびたび差し挟まれるストーリー、またひとつに、幽霊とも生霊ともつかない自在なキャラクターである伊吹風子の存在の、おおきく2つが挙げられるだろう。

どこまでが夢でどこまでが現実なのか。

そしてどこまでがこの世界で起こった出来事なのか。

それがずばりはっきりとは示されず、曖昧な部分を残すような見せ方が不思議な世界観を成り立たせている。

 

最終回では智也と渚と汐、そして町のひとびとの幸せな日常が映し出されるが、その光景がセリフなしのダイジェストで流れるところも幻想的魅力を増す。

――果してこの幸せな世界は本当に起こった出来事なのだろうか?

そういう不安がよぎる。

もちろんその後の「総集編」において、主人公の回想というかたちで最終回ラストはきちんと悲劇が回避された世界線であることが語られるものの、いったいどこまでが“ありえた世界”なのか? という独特の余韻を残す構成となっている。

物語の締めくくりを飾るのが、現実世界パートにおいてもっとも幻想度の高いキャラクターといえる伊吹風子の再登場というのも象徴的だ。

しかもそのラストはかつて幼い渚が危機に陥ったことのある緑地跡に建てられた病院の場面であるというのも、この物語が何を乗り越え、受け入れていく話であったのかを端的に指し示している。

物語の登場人物たちはみな不良だったり病弱だったりと、何かしらコミュニティからつまはじきにされていたり疎外感を感じているが、一貫してそれをすくい上げようとする視点にもグッとくる。

 

 

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