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猫は太陽の夢を見るか:番外地

それと同じこと、誰かがTwitterで言ってるの見たよ

吸血鬼と汗と異種族共存、および喰わず女房 : 石川博品『ヴァンパイア・サマータイム』

 

妖怪小説として読む(?)、石川博品『ヴァンパイア・サマータイム』。

 

 『ヴァンパイア・サマータイム』は地球の人口の半数が人間、もう半数が吸血鬼という世界を舞台に設定するライトノベルである。この作品世界の人間と吸血鬼は決して敵対しているわけではないが、両者の社会は昼と夜とで別たれている。二つの社会は一般のひとびとにとっては交わることがない。しかし夏休みのあいだズルズルと昼夜逆転になってしまう男子高校生(主人公)の生活は、吸血鬼が暮らす夜の世界と徐々に重なっていく。

他のヴァンパイアものにあるような派手なアクションシーンは登場しない。それどころか物語の中盤あたり主人公はほとんど自宅で寝ているかボーっとしているだけなのだが、だというのにこんなに面白い。

 

吸血鬼と汗

読んでいて顕著なのは雨、血、涙、唾液などの湿り気、とくに汗の表現である。作中では人間・ヨリマサと吸血鬼少女・冴原(さえはら)の互いの汗への感じ方が対比的に描かれる。

“汗を吸って冷たくなった制服のワイシャツが不快だったが、自分にはそれがお似合いだとヨリマサは感じていた。どうせならどこまでも駄目になってしまいたかった。”*1

“今日も彼は血のにおいを発していた。商店街を歩いていると、汗ばんだそのにおいがいっそう濃くなる。ついついそばに寄ってしまう。血は汗に溶けるのだろうか。彼のにおいを嗅いで自分もまた熱くなる。彼はそれに気づくだろうか。彼は自分の体からどんなにおいを嗅ぐだろうか。”*2

“彼女の肌は冷たく、濡れていた。吸血鬼も汗をかくのだ。ヨリマサの熱い肌で溶けているのかもしれなかった。触れ合う肌が湿っているのは、雲が雨を降らせて地面を濡らすことよりずっと謎めいていた。ふたりにしかできないことだと思った。”*3

“雨とは全然濡れ方がちがった。雨宿りしていて彼の腕に触れてしまい、全身から汗が吹き出した。彼の肌も汗ばんでいた。それに甘えて冴原は汗まみれの身体を彼に押しつけた。彼の温度が快かった。”*4

夏の夜の湿った空気、汗ばんだ衣服の感触が肌に伝わってくるような文章が秀逸。全編にわたってしっとりとした雰囲気に満ちた恋愛小説となっている。

 

ところでゼロの使い魔〉シリーズには「汗と血液は成分が同じだからと言って美少女吸血鬼に体中をペロペロさせる」という、ちょおま、天才かよ…っつー展開があるそうだが、残念ながら未読*5

烈風の騎士姫 (MF文庫J)

烈風の騎士姫 (MF文庫J)

 

 

 

吸血鬼と異種族共存ストーリー

 妖怪をはじめとする異種族と人間が共存する世界を描く伝奇ファンタジーにおいて、人間でない存在を社会のマイノリティとして置き、彼らが人間社会でどのように生きていくかという点をテーマとするストーリーはしばしば見られるものである。はじめは特別視されていた彼らが主人公サイドとの交流を通して次第に受け入れられていく。そういった過程そのものがストーリーの主軸となる作品は多い。

それ系の作品をディスるのではないが、一方、『ヴァンパイア・サマータイム』ではあとがきで作者自身が述べているように、人間も吸血鬼も特別な存在とはしていない。主人公とヒロインの視点が交互に展開することで、昼と夜を隔てた2人の恋愛模様が当たり前のものとして描写される。みな特別な存在でないゆえに、ともに生きることはかくも悩ましくもどかしい。誰かと共有できる時間はずっとは続かない。だが、ひとりきりの時間もまた永遠ではなく、きっとどこかで誰かと重なっている。そのような共存することの切なさみたいなものが、人間と吸血鬼という2つ世界の関係性からうつし出されている。

 

喰わず女房

“『私なら、血なんか吸わないってウソつくね』

「この前吸ってるとこ見られたじゃん」
『いっそ米も食わないっていうわ。こういう女に男は弱い。もはや結婚秒読みでしょ』
「それ実は妖怪だったていうパターンじゃん」”*6

本編288頁より。 石川博品作品は本作品に限らずちょいちょい妖怪ネタ(というか民話ネタ)をはさんでくる気がする。